@phdthesis{oai:iwate-u.repo.nii.ac.jp:00010403, author = {中野, 敦行}, month = {}, note = {嗅覚刺激がヒトの生理的・心理的状態に影響を及ぼすことは,広く知られている。評価方法として,質問紙や物理計測の脳波,血圧,心拍数,呼吸数などがあるが,主として交感神経系の変化しか観察できない。そこで,非侵襲で拘束等の制限がなく,分析に必要な検体を数分でミリリットル単位の量を採取可能な唾液に着目した。しかも,唾液には,交感神経素のマーカーだけでなく,内分泌系や免疫系のマーカーも含まれるので,複数の系を同時に評価することができる。これまで,唾液バイオマーカーを用いた嗅覚刺激の研究では,健常被検者における急性試験を中心に,一過性の合成香料の鎮静効果や香料の睡眠への影響等が研究されており,急性の交感神経活性の亢進や鎮静をもたらすことなどが明らかになっている。しかし,ヒトには国籍や生活習慣によって嗅覚刺激に対して感じ方に個性があり,好き・嫌いという嗜好性があるが,香りの嗜好性によって引き起こされる生理反応に関する検討や被検者の経験を考慮した検討は,十分に行われているとは言えない。本研究では,嗅覚刺激がヒトの心身に与える生理反応を,香りの嗜好性と生理反応の関連性と被検者の経験を考慮しつつ主観評価と唾液バイオマーカーを用いて非侵襲・無拘束の条件下かつ唾液の同時解析して検証することで,嗅覚刺激に対する生理反応の定量評価技術を開発することを,目的としている。本研究では,大別して2つのアプローチを試みた。1つ目には,精油の香りの嗜好性における生理反応の評価するため,日常的に使用されている精油を用いて,主観評価と嗅覚刺激前後の唾液アミラーゼ活性とコルチゾール濃度の変化を検証した。対象者を,日常的に精油を使用している被検者22名(40.6±8.4歳,mean±SD)を用い,被検者に好まれるロ―ズマリー,オレンジスイート,フランキンセンス,ラベンダー,ゼラニウムの5種類の精油を嗅覚刺激として,主観評価と急性反応と慢性反応を検証するためα-アミラーゼとコルチゾールの2種類の唾液バイオマーカーの同時分析を行った。その結果,0~10の範囲で主観評価を行ったところ,好みの平均値が最低でも6.8以上の高値を示し,かつ嗅覚刺激の経験の有無が8.6-9.6の範囲,日常生活での使用の有無は,7.1-8.9の範囲を示した。これは,用いた精油全て被検者に好まれ,かつ日常的に使用している被検者を選定できたと判断できた。唾液アミラーゼ活性は,精油の種類によって,オレンジスイートでは活性化,ラベンダーでは鎮静化,ローズマリーでは鎮静化と活性化といった3パターンを示した。コルチゾールでは,嗅覚刺激前後でラベンダーとローズマリーにおいて,P<0.05の有意差が確認された。これらより,唾液バイオマーカーを用いれば,精油の嗜好性によって引き起こされる複雑な生理反応を考察できる可能性が示唆された。2つ目として,香辛料における記憶と経験による生理反応の評価するため,日本人にとって馴染み深い香りであるカレー粉に使われている香辛料を用い,主観評価と嗅覚刺激前後の唾液アミラーゼ活性,オレキシンA,β―エンドルフィンの変化を検証した。対象者を10人の日本人成人男性(22.1±1.1歳,平均±標準偏差)として行った。コリアンダー,フェヌグリーク,クミンを同量で混合したものを香辛料標準見本とし,市販されているカレー粉を香辛料優良見本として嗅覚刺激を行った。主観評価とα‐アミラーゼ,オレキシン,β‐エンドルフィンの3種類の唾液バイオマーカーを安静時,嗅覚刺激時,後半安静時に測定し,分析をおこなった。その結果,主観評価では,2種類の香辛料間で食欲増進について,p<0.1の統計的有意差が認められた。香辛料優良見本は,市販のカレー粉として誰もが1度は嗅いだ経験がある香りであることから,香辛料標準見本よりも食欲増進の評価が高かったと言える。α-アミラーゼでは,嗅覚刺激後において,2種類の香辛料間でp<0.1の統計的有意差が確認され,香辛料優良見本が高値を示した。これは,香辛料優良見本の方が有意な上昇が認められ,交感神経活性の活性化を示唆した。オレキシンAでは,2種類の香辛料間で統計的な有意差は認められなかったが,香辛料優良見本では,刺激前と刺激直後でp<0.1の統計的有意差が,刺激直後と刺激安静後でp<0.05の統計的有意差が認められ,嗅覚刺激による中枢神経系の変化が,唾液バイオマーカーに現れる可能性を示唆された。β-エンドルフィンでは,2種類の香辛料間,および経時変化の双方に関して,統計的な有意差は認められなかった。以上により,主観評価と唾液バイオマーカーの双方で香りに対する経験の有無が生理反応の変化に反映されることが示唆された。本研究により,以下の事項が明らかとなった。1)唾液アミラーゼ活性を用いれば,主観評価だけでは判別が困難な覚醒効果,鎮静効果,鎮静とその後の高揚効果といったより複雑な精油の生理反応を観察できる可能性が示唆された。2)香りに対する経験の有無が,主観評価と唾液バイオマーカーの生理反応の両方に反映され,摂食促進物質などを唾液バイオマーカーとして用いることで,より詳細な生理反応を観察できる可能性が示唆された。}, school = {岩手大学}, title = {唾液バイオマーカーを用いた嗅覚刺激の定量評価技術に関する研究}, year = {2013} }