@article{oai:iwate-u.repo.nii.ac.jp:00012768, author = {日置, 孝次郎}, journal = {思想と文化}, month = {Feb}, note = {音象徴 sound symbolism とは一般に次のように考えられている。言語外的世界の聴覚的あるいは視覚的事象に対して言語的音声を関連づけている現象であると。聴覚的事象に呼応する音声の関連性の場合としては,擬声語(コケコッコー,ワンワン)が挙げられ,視覚的なものとの関連づけとしては擬態語(ピカピカ,ダラダラ…)などが考えられる。音象徴にはまた,いわゆるsize symbolism も含まれる。これは,視覚的に大なる対象には開口度の大きい開母音 a,小なるものには開口度の小さい閉母音 i を結びつけようとする現象である。よく例に出されるのがラテン語の maximum 最大vs minimum 最小である。ところがこれに対して,では英語の big 大きいvs small 小さい はどうだと反論が向けられる。この問題はしかし,当該言語の語彙体系や語史に就いての共時的,通時的レベルにおける研究を踏まえて議論さるべきものであると考える。 size symbolism についてはその存在が確認される言語の事例は報告されている。現代の言語学は,音象徴に関しては比較的無関心と言える。善意に解釈して,なすべき重要課題が他に山積しており,そこまでは手が回りかねるという状態におかれているとしよう。この状況が生じた事に強い影響を与えたのは,現代言語学の創始者とみなされるフェルディナンド・ド・ソシュールと思われる。彼は擬声語についてち,数からして僅少であり,言語体系の組織的要素ではないとしてそれ以上は取上げない。確かに共時的には擬声語は固有の形態としてほどく僅かで体系の中の例外的存在に過ぎない。但し,言語構造の本質に議論が及ぶとき,通時的考察は不可避である。共時的に見れば,体系中の例外的存在も通時的に見ると,かつて体系の核心部であった例は多い。例えば,英語の動詞の活用体系中,いわゆる不規則動詞は,時制変化を語根中の母音変化で表わす(sing 歌う,sang 歌った,sung 歌われた)。ところが,次第に数が減じ,僅少になりつつある例外的動詞は,実はゲルマン語における本来的な1次動詞で,母音交替の事象で時制を表わすものであった。そして現在,本来的と考えられている規則動詞は1次動詞やその他の品詞から派生した2次的なものであった。ソシュールによるシニフイアンとシニフィエン間における一切の自然的秤の可能性の否定は,複合語における動機性の容認はあるとしても,徹底的であり1),音象徴を許容する余地はほとんどないといえよう。 本稿では,音象徴の古典的仮説とも言えるプラトンの対話篇クラテエロスのピュセイ説を取上げ,議論の内容確認,次いで心理学による音象徴の実験結果に基くピュセイ説の検証と,更には音象徴の心理実験に用いられた二項対 立的メルクマールが民俗に表われる恒常的象徴(二分法的)と同一である点を指摘,心理,言語,民俗,認知の諸分野における音象徴に表われた基本的メルクマールに関しての整合性に基き,ピュセイ説の妥当性を,その不足を補いつつ示そうとするものである。}, pages = {107--122}, title = {音象徴について-ピュセイ説をめぐって-}, year = {1986} }